研究開発=両極から見えるもの

第5回 集中と分散

[2007年07月号]

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図 集中と分散

 管理業務をこなす人々は、当然のことながら担当者の進捗状況を把握したくなるであろう。一方担当者の方は、若手が多いこともあって上司の指示が手におえないと感じていたりする。経験不足や自分の能力に対する不安によるものもあるであろうし、業務には本来関係のない感情面から来るものもあるであろう。

  営利が重要な要素である私企業では、正確さは当然のこととして、スピードが求められる。時には、完全でなくても、タイミングを優先する場合さえある。管理サイドは迅速な成果を必要とするが、担当者の方は現実的な困難に直面して、袋小路に入り込んでいたりする。

  実際業務処理に自信が持てるようになるのに、十年くらいはかかるであろう。座学やテキストで学んだことを、筆記試験ではうまく解答できるのに、いざ実務ではお手上げということはよくある。数学など特別な学問は別として、どのような分野でも一定の経験が物を言うことが多い。

集中と分散

 国とか大企業では、内部で似たような業務に携わる複数のグループが存在する。管理側は、統合してもっと強力に仕事を進めるのが良いと感じるだろう。一方現場の方は、地理的に離れていること、仕事の流儀や人のつながりから、統合などとんでもないという印象を持つことが多い。

 技術の例についていえば、成熟して業務の進め方が確定しているなら集中の方が良いかもしれないし、逆に研究開発段階や、客先が異なる場合などは、そのまま分散しているほうが良いのかもしれない。計算機の例では、個人ユーザーについては、自律分散になってしまっており、メインフレームで仕事をする人は少ないであろう。一方銀行口座などはそうはいかないであろう。

 研究者や技術者はもちろん分散を好むであろう。管理すなわちある種の情報集中化業務と、研究者や技術者の相互矛盾が生じる典型例は計画書であろう。公的でも社内でも資金を投じる場合、何の証拠や計画も無ければ、出資側は当然納得できない。

 一方、研究者や技術者は絶え間なく解決困難な問題に出くわしているので、そもそも業務上の期日の入った計画など荒唐無稽に感じられ、もし計画が書けるとしてもそれは既に達成したことの応用や発展であろう。多くの計画書が何か絵空事のように感じられるのはそのためであろうか。もし研究や技術開発に期日的な目処がある程度たてられるのなら、皆そんなに苦労はないはずだ。しかしいつまでも勝手にやっている訳にも行かないので、悩みは多い。

 技術Aの開発や、理論Bの確立、現象Cの発見、といったことは、期日の入った計画書を入念に準備して管理者に提出したから生じたのではない。むしろ管理側が提供した、ある種活発な職場環境、ある程度の自由さのあるテーマ選定、あるいは自分自身で入り込んだ逆境のなかで何とかして物事を達成したいという強い意思などによるものだ。研究開発などは、日々ゲリラ戦や宝探しのようである。

ジャパンクール
  仕事の進め方はともかくとして、日本も本当の意味で高度に洗練された先進国になってきている。研究や技術の方面でも優れたものが多くなり、隔世の感がある。通勤途上でも海外への航空機内でも、英語論文に目を通したり校正したりする研究者が数多く見受けられ、感心するばかりである。このような姿がクールな日本として世界に認められているのは、戦後つつましかった時代に育った世代には眩しく感じられる。


森下悦生
モリシタエツオ 1949年三重県生まれ。東京大学工学部航空学科卒、同大学院修士課程修了、ケンブリッジ大学工学部修士課程修了。1974年三菱電機に入社、スクロール圧縮機の研究開発などに携わる。1993年より現職、東京大学大学院航空宇宙工学専攻、教授として教鞭を取る。


●著者連絡先
tmorisi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

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